平成の会社不正・粉飾から考える令和の会社経営に必要なこと
多くの大企業が不正や粉飾を犯す日本社会の昨今。
経営数字だけにとらわれるあまり、本質的に健全な経営を見失っている企業は多いのではないでしょうか。
「理念実現パートナー」の新井隆氏は会計士・税理士として25年間で100社以上の組織を見てきました。
企業とそれにかかわる全ての人が幸せになる未来を実現する想いのもと、「平成の会社不正・粉飾から考える令和の会社経営に必要なこと」と題してお話をしていただきます。
令和の時代になりましたが、残念ながら最近では会社の大きな不正、粉飾といった問題が続いています。
今年は、かんぽ生命の不正の生命保険の販売、昨年は日産自動車のゴーン会長の問題、スルガ銀行の不正の融資の問題などがありました。
私は会計士・税理士として25年間、監査・税務という現場を通じた観点で、小規模な中小企業から、いわゆる上場企業に至るまで100社以上の会社や組織を見てきました。
改めてこれからの令和の時代、企業経営に必要な事は何なのか?という事を、皆さんにお話したいと思います。
粉飾の是正でぶつけられた「経営とは何だ」という問い
これに先立ちまして私の体験談から1つお話します。
今からちょうど11年くらい前、2018年、私はある監査法人に在籍しており当時、東証マザーズの不動産開発会社の監査を担当していました。
この会社、2007年の業績は売り上げが約700億円。利益も60億円出すというなかなかの会社でした。
2007年というのは不動産の市場は良かったものですから、非常に業績が良かったのです。
この勢いがあって2008年、この会社は売上1000億円という目標立てました。
ところが2008年にリーマンショックがあり、この会社さんも例外なく影響受け、実際の売り上げは大幅な減少。もちろん売上は前年割れです。
しかし悲しいかな、上場会社の株価や利益というのは非常に投資家に影響を与えますから、大きなプレッシャーでした。
そしてこの会社がとった行動が何かと言うと、粉飾です。
ただこの粉飾手口が非常に幼稚だったので、すぐに是正して最終的に我々会計士、監査法人を通じて100億円の損失を計上させました。
そして、最終的には赤字決算となりました。
この時、オーナー会社が我々会計士に言った捨て台詞が「経営とは何だ」です。
当時、私はこれに対して何の反応もできずに黙り込んでしまったのです。反論できない悔しさだけが残りました。
改めてこれを機会に、健全な経営に必要なものとは何なんだろうという事を考えるようになりました。
「経営理念」と「経営数字」の循環こそ健全な経営
我々監査の仕事は一般的には帳簿とかあるいは決算書といった、いわゆる経営数字をチェックするのが主な仕事です。
ところが、実際にこれを作っている経営者や従業員が、一体何を考えているのかという事は意外とわかっているようでわかっていなかったのです。
彼が何を考えているか、改めてチェックが必要なものは何なのか、自分なりに考えました。
そして出てきた答えが、「経営理念」という言葉。
「経営理念」とは会社のミッションであるとか、使命、目的、社会的責任、あるいはビジョン。広くとらえれば社長さんがワクワクする事などもあります。
いわゆる思考の世界です。
実際、色々な会社を見てきましたが、多くの会社に「経営理念」があります。
ところが、社長さん自身も理解していなかったり、もちろん従業員にも浸透しなかったりというケースがほとんどという事がわかりました。
では改めて何だろうと思い、色んな本を読んで経営理念と経営数字の関係を考えました。
元々商売をやる人は、目標や理想、使命が何らかの行動に移っていき、最終的にそれが経営数字、売上や利益になっていきます。
色々な著名な経営者の本を読んでいると、利益やお金はこの「経営理念」を実現するためのものであると書かれていて、私はなるほどと感じました。
実際に現場の会社でありがちな流れとしては、やはり最初に利益だと言って、経営数字があって、これに基づいてみんな行動してしまう、「行動と利益の連鎖」なんです。
行動と利益というのがうまく循環してれば問題ないのですが、ちょっと問題があった時に不正や粉飾が出てくるのです。
では経営とは何なのかという事を自分なりに定義した場合に、「経営理念」と「経営数字」という2つの概念を考え、交互に循環して回していくようなものではないかと結論付けました。
言葉で言えば整理整頓、あるいは循環です。イメージですとこんな感じです。
経営とは「経営理念」と「経営数字」がお互いに支え合う。そして、循環し合う。
これらが両輪となって経営は進んでいくというのが、会計士という立場からわかってきました。
渋沢栄一も説いた経営における道徳観
実はこの「理念と数字」という世界は昔からありました。
皆さんご存じ渋沢栄一さんという方です。
渋沢さんは明治の実業家で、日本の資本主義の父と言われています。幕末から昭和にかけて生きた方で、会社を500くらい作ったと言われています。
この方は『論語と算盤』という本を通じて教育をしてきました。
論語とはいわゆる中国の老子の道徳観、倫理観を表したもの。算盤とはいわゆる利益や経済を表した言葉です。
渋沢さんはこの『論語と算盤』の中で、大事なのはこの道徳と経済のバランスだとおっしゃっています。
例えば、道徳だけに偏ってもいけないし、利益だけを追求しても駄目という事です。
道徳がこの「経営理念」に通ずるもので、そして経済力とか利益の追求というのが「経営数字」につながるものかなと自分なりに結論付けました。
もし仮に今、「経営とは何だ」という質問されたら、おそらく私はこう答えると思います。
「一言で言うならば、それは理念と数字をまずは整理整頓してください。
それから理念と数字を循環させてみてください」と。
私は今、千葉県流山市という所で会計事務所をやっています。
お客様に数字の提供をして、それと同時に理念やビジョンを一緒に考えるお手伝いをしています。
「経営理念」と簡単に言ってしまいますが、難しい話でやっぱりなかなか策定できないという人が多いので、会社と一緒、一丸となり「経営理念」を策定するというお仕事もしています。
それで今、理念実現パートナーという肩書を名乗っているのです。
「利益も重要です。理念はもっと重要ですよ」という事をおっしゃっている社長さんも出てきました。
この様に、理念と経営が循環しながら進んでいくと、理念に共感した人が集まってくるのです。
なので、こういう風に会社は成長して最終的に組織も成長するという循環が、だんだん私の事務所のお客様にも見えてきました。
両親から受け継いだ、人と人との繋がりの感受性
私の真志命は「物事の本質を分かりやすく伝えて、喜びを分かち合う」という事です。
キーワードは「本質と喜び」という事です。それに思い至るには、私の両親の存在がありました。
父は東京の小金井にある、小金井工業という所を卒業して東京電力に入りました。
母は慶応の看護学校を出て、看護婦をやりながら兄弟3人の家族を育ててくれました。
どちらかというと父は技術旗、母は医療旗で、やっぱり父の影響が大きかったのです。
数字とか客観的なものを見ることに美しさを感じて、会計士という仕事の世界に入りました。
父も母も世話好きで、人の繋がりを非常に大切にする人でして、特に母は人の人間関係を軽視すると物凄く私の事を怒る人でした。
人と人との繋がりの感受性みたいなものが敏感になるようになって、それが喜びに繋がり、最終的には数字だけではなく理念を追求したいという世界に繋がっていったと思っています。
「理念と数字」を整理整頓し、みんなが幸せな未来をつくる
今後は経営理念も追求しながら、いずれは会社、あるいはステークホルダーのみんなが幸せになる世界を目指しています。ステークホルダーというのはお客さんであったり、社員、家族であったり、取引先、地域社会…。こういったみんなが幸せになるような未来を実現できればいいなと思っています。
今、我々の業界では「事業承継」という言葉が流行っていますが、私は会計士の仲間と一緒にチームを組んで、経営理念の承継という事にチャレンジしています。
こういった事がいずれ日本の新しい力を生んでいくと考えています。
最後になりますが、よく私のお客さんからこういった問い合わせがあります。
売り上げが上がらない、資金繰りが厳しい、事業がうまく進まない、社員が指示通りに動いてくれない、色々な不満が出てきます。
実はこれらの問題を説き起こしていくと、最終的には会社経営に必要な「理念と数字」のところに行きつくという事がわかってきました。
これをちゃんと整理整頓して循環して、その後細かい事を考えていけば必ず会社というのは上手く進んでいきます。
特に会社経営をやる皆さんに、これから一つでも会社経営のヒントになるようなお話が伝えられればと思います。
幸せな未来をあなたに。