1000万円の出資を投資家に決意させた、ルーキー起業家の話
毎週日曜朝9時半から、FM那覇で放送中の『坂本憲彦のラジオ起業塾』。起業家の専門家、坂本憲彦がはじめての起業で成功するために大切なポイントをお届け。沖縄で起業したい人を応援するラジオ番組です。
▼こちらの音声は、下記の「FM那覇」のサイトよりお聴きいただけます(※2019/04/21放送)▼
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VR事業のプレゼンで1000万の出資を勝ち取った方のお話
森川 最近、坂本先生の教え子さんで特に目覚ましい活躍をされた方がいたとお聞きしました。簡単にご紹介いただいてもいいでしょうか。
坂本 坂本立志塾の塾生さんで、川崎さんという方です。先日Tokyo XR Startupsという、スタートアップの方向けのプレゼンテーションのコンテストがありました。川崎さんはそこで最終選考を突破して、スタートアップ企業に認定されて1000万の出資を受けて、これから会社を立ち上げていくところです。
森川 コンテストですから、応募されても出資を受けられない方もいるんですね。
坂本 そうですね。
森川 1000万円というお話を聞くと、すごく競争率が高くて難しいコンテストなのかなと思いました。川崎さんは、具体的にどういった分野で応募されたんでしょうか?
坂本 VR(仮想現実)のゲームです。彼は「できないを、できたにする」をコンセプトにこれを開発しました。当初はけん玉をVRの中でできるようになると、現実でもできるようになるシステムを作っていました。今はそれを他のスポーツにも応用して、ゴルフのVRトレーニングシステムを開発しています。その事業展開のプレゼンをして、出資を受ける形になりました。
森川 はい。普通ならけん玉でもスポーツでも「できないから、あきらめる」となりがちなところを「できた」に変えられたら、その成功体験は人生の財産になると思います。非常に意義のあるビジネスだと感じました。
坂本 そうですね。おっしゃるように、とても意義のあるものだと思います。ただのゲームではなくて、実際にスポーツができるようになります。VRの中では動きをスローモーションにできたりしますので、たとえばけん玉の動きをゆっくりにして難易度を下げることもできます。それで練習すると基礎がしっかり身に付きますので、現実で早くなっても対応できるようになるんです。
森川 今はけん玉やゴルフだけですけど、他のスポーツにも広がっていくとすごく可能性を感じますね。このお話を坂本先生からご覧になったとき、コンテストで難関を突破して出資を勝ち得た成功の要因は何でしょうか?
坂本 そうですね。彼のプレゼンは立志塾の方でも内容を作っているタイミングで、出資を受けるためのプレゼンも途中経過を見させていただいて、サポートをしました。最初はけん玉でやりたいという強い意志があり、けん玉が好きでVRのシステムを開発したのでそれを普及させる感じでやっていました。ただ、先方からも指摘されましたけど、けん玉だと市場が小さいんです。けん玉のトレーニングでどこまでお金を使うかというと、そんなにお金を使うところではありません。なので、他の需要があるジャンルに行けるかどうかが大きなポイントでした。
森川 はい。
志の原点は、小学一年生のときの出来事
坂本 そこで、なぜけん玉なのか、なぜVRなのかというところを深く掘り下げていきました。彼はけん玉にすごくこだわりがあったので、私は「けん玉の世界チャンピオンを育てたいんですか?」とたずねました。そうしたらそれは違う、そこには別に興味が無いと言われて、意外に思いました。それで何故なんだろうと話を聞いていったら「僕は、できない人をできるようにしたいんです」と強く語ってくれました。さらにその理由を聞いていくと、彼の一番原点にあったのは小学生の頃の出来事でした。一年生の時に、学校の体育の授業で鉄棒の前回りをする授業があったんです。できた人から抜けていく形式だったんですけど、彼はできなくて一番最後まで取り残されてしまったそうです。それが彼の中で強いトラウマになっていました。誰でもできるようなことが、自分にできなかった。でも、母が三日三晩練習に付き合ってくれて、すごく手助けしてくれたそうです。
森川 三日三晩ですか。
坂本 それで無事に、前回りができるようになりました。そこで彼は、母親のように「できない人を、できるように助ける」ことが原点なんだと気付きました。本当にこだわっていたのは、けん玉ではなく「できないを、できたにする」ことだったんです。それなら、他のスポーツでもそれで行けばいいと、視点が変わりました。ゴルフやテニス、卓球や野球など、球を動かすものは全部VRトレーニングの対象になります。そこでまず、市場の一番大きなゴルフ業界に参入して、VRでのトレーニングプログラムを作っています。もちろん将来的には、他のスポーツに対応することも視野に入れているでしょう。
森川 球が動けば何でもいいのでしたら、すごく応用のきく話だと思いました。もし、VRのトレーニングシステムが少年野球や少年サッカーのチーム、学校の体育の授業、プロスポーツのジュニアチームやオリンピックの強化合宿などに活用されたら。出資者側も、そういった大きなリターンの可能性に賭けて、出資の決断をされたのでしょうか。
坂本 そうですね。今お話しされた収益性などは、考慮していると思います。けれど僕が彼に伝えたのは、どういう世界をつくりたいのかという「自分の志」と「諦めない理由」を伝えて下さいということでした。大事なのは、事業に世のため人のためというビジョンがあるかどうか。それを普及させることで、誰がどう幸せになるのかを伝えられるかです。そして多くの人が夢を諦めてしまう中、それを諦めない理由があるかです。彼の場合はできないをできたにして、できなくて苦しい思いをしている人を助けること。もう一つの理由は、半導体の設計者だったお父様が遺してくれたVR開発のできるパソコンでした。その遺志を継いで、まず好きだったけん玉でVRを作ってみたとお聞きしました。お父様の開発者としての想いと、前回りができるまで見守ってくれたお母様の愛情も引き継いだ彼の人生の目標は「愛と技術で、できないをできたに変えていく」です。その説得力が、他の人とは一線を画していますね。僕は他のコンテスト参加者のプレゼンは聞いていませんけど、諦めない理由のところはすごく自信がありましたと、彼は語ってくれました。出資の有無に関わらず、僕はやると言っていました。そこはとても大事です。お金があったらやる、無かったらやらないでは、そもそもやる気が無いのと同じですから。
出資者は数字だけでなく、人柄も見ている
森川 そうですね。僕は素人考えで、お金を出される人は費用対効果や投資効果を重視して出資の判断をしていて、感情的な部分や人間味には重きを置かないのかと先入観を持っていました。意外にそうでもないのでしょうか。諦めない理由ですとか。
坂本 出資する方も、人間ですから。ロボットがお金を出すわけではありません。ベンチャーへの投資って、10件投資して1件当たればラッキーという世界です。
森川 そうなんですか。
坂本 全部当たるようなうまい話はありません。10人に1000万ずつ出して、どれかが上場して、何億か何十億を稼げたらラッキーと。もちろん、市場の大きさなども見ます。当初のままけん玉でやっていたら、通っていなかったと思います。市場が小さ過ぎますので。ゴルフという広い市場を選べたことと、彼が納得して行けたことが何より大きいでしょう。ただ儲かるだけでは、好きでもないゴルフになんでここまで取り組むのか悩むでしょうから。
森川 なるほどですね。
坂本 無理をしていると、辛くなってきますので。彼の中には「できないを、できたにする」のコンセプトががっちりあります。自分の原体験から来ているので、ブレようがないですね。出資する方も素人ではないので、そのあたりを分かっているんです。結局、ビジネスの成功のポイントはノウハウやテクニックではなくて、社長がどれだけ本気になっているか。命を張ってやろうとしているかです。今流行りだから、ちょっと面白そうだからでは、流行らなくなったらどうなるでしょう。その程度の想いでは、成功するはずがありません。出資者はやはり、その辺を見抜いてくるでしょう。
森川 なるほどですね。今回はプレゼンのコンテストですけど、銀行などから出資を受ける際にも押さえておくべき要点になるんでしょうか。
坂本 銀行は事業計画とか数字の方ばかり見ますけど、自分の知り合いに出資をお願いするとなれば、なぜこれをやるのかという理由や続けられる理由は絶対あった方がいいです。特にスタートアップの事業は、当たるか当たらないか分からない不安の中でお金を出すものです。
森川 今回のケースですと、事業計画がしっかりしていて対象となるゴルフ市場も大きく、志や諦めない理由も上手くかみ合っていたことが出資者の心をつかんだのだと思います。実際に川崎さんが坂本先生の起業塾で学ぶ中で、自分の内面を見つめて志を見つけた感じになるんでしょうか。
坂本 はい。そこまで掘り下げて、なぜ自分がこれをやりたいのか分かったのも、立志塾に来てからです。
森川 逆に、立志塾に入られるまでの川崎さんはご自分の「やりたいこと」や「志の原点」がそこまで明確になっていなかった感じでしょうか。
坂本 全くまとまってないわけではありませんでしたけど、けん玉には固執してましたね。VRのけん玉が、なぜそんなに好きなのかの理由が分かっていない状態でした。僕の著書「6つの不安がなくなれば、あなたの起業は絶対成功する」も読んでいただいて、1章の「本当にやりたいことの見つけ方」のところでワークを何回もやって下さっていました。
森川 そうですか。
坂本 それでVRのけん玉でいこうと決めて、立志塾に来た頃の川崎さんはおもちゃ屋の前で一日場所を借りて、無料でVRけん玉のお試しをやっているような状態でした。そこから自分の内面を掘り下げて、プレゼンの内容を作り込んでいきました。そしてその頃ちょうど、スタートアップのコンテストがあるということで申し込んで出場したところ3月に出資が決まり、今はもう会社を立ち上げています。仲間も9人ぐらい集まってやっているそうです。それが9月ぐらいから、およそ半年間の出来事でした。
森川 それはすごいですね。
坂本 そうですね。すごく劇的な変化をしてくれました。
森川 お金が全てではないですけど、それだけの出資を受けられるとビジネスが加速しますね。
坂本 そうですね。1000万はシステム開発費ではなくて、全部人件費なんです。
森川 そうなんですか。
坂本 それで今はプロトタイプを6月か7月までに作って、またさらにプレゼンをしてより大きな出資をもらう準備をしています。
森川 なるほどですね。すごいです。
坂本 はい。
森川 それだけのお金を出資してもらうのに、相応の理由があるんだなと思いました。昔あったテレビ番組で、一般人の起業家が投資家の審査員を前にプレゼンをする「マネーの虎」をすごいなと思いながら見ていたんですけど、こんな身近なところにもそういうお話があるんだなと思いました。
坂本 そうですね。「諦めない理由」をしっかり見つけておかないと、お金をもらっても耐えられません。お金をもらうことは責任でありプレッシャーで、予想以上の重圧がかかってきます。彼も通帳にお金が入っているのを見て、緊張しますと言っていました。そのときにもう自分の中にしっかりしたやり通す理由があったので、とても良かったと思います。
森川 ありがとうございます。起業家にとって、出資が必要になる場面は多いと思います。今のお話を聞くと市場の大きさや発展可能性も大事だと思いましたけど、あわせて「諦めない理由」や「ビジョン」に「志」がしっかり備わった事業計画でないと出資にも事欠き、それ以外の場面でも上手くいかないのだろうかと思いました。このラジオを聞かれているリスナーの方々も、市場性や計画性だけに留まらず、諦めない理由や志なども見つめ直していただくと初めての起業がより成功しやすくなるのではと思いました。
では坂本先生、本日もありがとうございました。
坂本 ありがとうございました。