歯科医院の開業資金の融資ガイド、2つの事例とともに解説

歯科医院の開業資金の融資ガイド、2つの事例とともに解説
この記事の監修

蒼島裕之(あおしまひろゆき)

信用金庫にて20年以上、創業融資や資金繰り支援、事業再生など幅広い融資業務に携わり、1,000件以上の事業と向き合う。業種や規模を問わず、経営者の想いをじっくり聞き、その実現に向けた具体的なプラン作りを支援してきた。「経営者の想いがカタチになる創業」を目指してサポートしている。

歯科医院の開業資金の融資に関して、実際に信金の現場で扱ってきた2つの融資事例を交えてお伝えします。

歯科医院の開業資金の融資は、金融機関からすると基本的には積極的になります。

なので、融資は通りやすい分野と考えていいですが、必ず誰でも融資が通るということではありません。

ポイントは押さえる必要がありますし、事業計画をしっかり立てるかどうかで融資はもちろん、経営にも影響が出ます。

そこで、この記事では以下の内容をお伝えします。

  • 歯科医院の開業資金の目安額
  • 融資を受ける上で押さえるべき5つのポイント
  • 事業計画のつくりかた
  • 融資を含めた開業までのスケジュール
  • 2つの歯科医院の融資事例

歯科医院の開業資金は5,000万円~1億円

総額の目安は、5,000万円から1億円と考えていいでしょう。
だいぶ幅があると思われるかもしれませんが、条件によって大きく変わりますので、どうしても幅が広くなります。

建物を作るところからなのかテナントに入るのか、都市部なのか地方なのか、さらにはどんな設備を導入するかによってもかなり変わります。

後ほど触れる事例だと、ちょっと特殊事例かもしれませんが、1億円を大きく超えて地方で建物を建てるところからスタートして1億4,500万円の融資というケースがあります。

一方、テナントに入って約8,000万円の融資というケースもあります。詳細はのちほど。

歯科医院の開業資金の内訳

歯科医院の開業資金の内訳の目安は、以下のようになるものと思います。

費用項目 目安額 ポイント
医療機器・材料費 2,000~3,500万円 診療ユニット・レントゲン・滅菌器など。中古リース活用で圧縮可。
内装・外装工事費 500~1,300万円 配管・配線を踏まえたゾーニング設計がコストを左右。
物件取得・保証金 300~800万円 賃料6~12か月分が相場。居抜きの場合は圧縮可能。
運転資金(6か月分) 1,000~1,200万円 診療報酬は2か月後入金。キャッシュ不足対策として必須。
採用・広告費 150~400万円 スタッフ採用、市場調査、広告を含む。

といっても、ケースバイケースでかなり幅はありますから、単なる一例として捉えるのがいいでしょう。

実際にあった融資事例も後述しますので、自分の場合はどうなのかしっかり検討してください。

歯科医院の開業融資をスムーズに借りるためのポイント

歯科医院に限った話ではありませんが、融資する側は次の5つを重点的に見ます。

  1. 事業計画
  2. 自己資金
  3. 融資金額
  4. これまでの実績や経験
  5. 過去の信用情報

それぞれ詳しく見ていきます。

融資審査を通すための事業計画書作成のポイント

特に重要となってくるのと、経営にも影響するのが事業計画です。

ここをしっかりと作っておかないと、融資が通らないどころか、経営そのものが頓挫しかねません。

といっても、金融機関側としても融資を通したいのが歯科医院ですから、いろいろと手伝ってはくれることもあると思います。

市場分析と競合調査

開業予定地の人口動態、年齢構成、競合歯科医院の分布状況を分析しておきます。

細かな数字までは必須ではありませんが、「なぜその立地を選んだのか」という合理的な説明は必要です。

収益予測とシミュレーション

現実的な患者数予測は規模感にもよりますが、開業1年目は1日平均15人~20人、2年目は25人~30人、3年目以降は35人~40人といったような数字が妥当でしょう。

歯科医1人であれば、受け入れられる患者は1日15人前後になると思いますから、開業からずっと歯科医は自分1人で、というような場合には患者数が増えるような計画にはなりません。

過度に楽観的な予測は審査で疑問視されます。

診療単価の設定は、保険診療中心の場合は1人あたり3,000円~4,000円自費診療なら5,000円~7,000円程度が現実的な水準です。

1日の患者数と診療単価をもとに、開業から軌道に乗るまでの詳細な月次計画を作成し、どの時点で黒字転換するかを明確に示すことが重要です。

返済計画の立て方

借入金は税引き後の利益から返済する計画にします。

年間返済額が税引き後利益の70%を超えると返済が困難になる可能性が高いため、この点を十分に検討した計画書を作成してください。

必要書類の準備

必須書類は、

  • 事業計画書
  • 資金計画書
  • 収支予測書
  • 経歴書
  • 資格証明書
  • 物件概要書
  • 見積書(設備・内装)

など。

その他、追加提出書類として、

  • 預金通帳(自己資金確認)
  • 源泉徴収票(過去3年分)
  • 賃貸借契約書(予定)
  • 工事請負契約書(予定)

など。

他にも、親や配偶者の資産状況が分かる資料も用意しておくと、よりスムーズです。

自分の資産ではなくても、近親者の資産があることを示せると、審査は有利に運びます。

書類の不備は審査遅延の原因となるため、事前に金融機関に確認を取ることをお勧めします。

歯科医院の開業資金で用意する自己資金

審査では自己資金の金額だけでなく、どうやって用意したかも明らかにする必要があります。

急激な残高増加や不明な入金があると、説明を求められることがあります。

評価される自己資金の例としては、以下のようなものがあります。

  • 預貯金(給与からの継続的な積立)
  • 退職金の一部
  • 親族からの正当な贈与(贈与税申告済み)
  • 有価証券や不動産売却による収入

現金で十分な自己資金を用意できれば問題ないですが、株や投資信託、不動産など金融資産をすべて伝えておくのもプラスに働きます。

また、先ほども書いたとおり、自分のお金でなくても親や配偶者の財産も提示しておくと有利になります。

フルローンも可能なのが歯科医院

金融機関から融資を受けようと思ったら、たいていの場合、自己資金を用意する必要があります。

ですが、歯科医院やクリニック(あくまで医師が開業する場合であって、整骨院などの医療機関は別)の場合、フルローン、つまり自己資金なしでも融資可能です。

実際、自己資金が数万円で8,000万円近く融資を受けたケースもあります(数万円の自己資金があるので、厳密にはフルローンではないですが)。

それだけ金融機関側も融資したいと考えるていると言えます。

歯科医院の開業資金での妥当な融資金額は計画による

前述のとおり、歯科医院であれば、開業資金は5,000万円から1億円の範囲が通常です。

なので、その範囲内であれば基本的には問題はないと思います。

借りる金額が小さい方が借りやすいかというとそう単純ではなく、重要なのは事業計画の妥当性です。

金融機関側としては利益を考えたら、リスクはもちろん考慮しますが、融資額は大きいほうがいいと考えます。

なので、歯科医院のような安定経営を見込めるケースならできるだけ大きく貸したいと思うわけです。

高額な設備投資は融資で許容される?

歯科医院で導入する機械の価格が高いか安いかなどの判断は、金融機関側ではしないと考えていいでしょう。

歯科の専門領域の話になりますから、金融機関側では判断できないためです。

もちろん、提示されたら何でも通るとまでは言いませんが、歯科医院に限らず、眼科や皮膚科、内科などのクリニックや整骨院などでも同様です。

歯科医師としての経験・実績も開業資金の融資には影響する

勤務医時代の経験年数、勤務先の規模、担当していた診療内容などが評価されます。

特に開業予定の診療内容と関連する経験があることが重要です。

過去の信用情報も開業資金の融資には影響が出る

いくら事業計画が良くても、過去に金融機関から借金をして返済に問題があったなどがあると話は変わってきます。

個人信用情報に問題がある場合は慎重な審査が行われる可能性があります。

特に、過去3年以内に支払いの遅延や債務整理の履歴がある方は、融資が難しくなるケースが見受けられます。

たとえば、クレジットカードの滞納や、複数の消費者金融からの借り入れがある場合は該当します。

これらの情報は、JICCやCICといった信用情報機関に登録されており、記録は通常5年~10年程度保持されます。

たとえ10万円以下の少額延滞であっても、融資審査には影響を及ぼすため、十分に注意が必要です。

延滞という行為そのものが問題視されます。

歯科医院開業時の融資申し込みのスケジュールは不動産依存

以下は、融資を考慮した歯科医院の開業までのスケジュールの目安です。

12ヶ月前:立地選定、基本計画の策定
9ヶ月前:金融機関への相談開始
6ヶ月前:融資申込、物件契約
3ヶ月前:内装工事開始、設備発注
1ヶ月前:各種届出、職員採用
開業:グランドオープン

ただ、このとおりに進むのかと言われると、そうもいかないのが現実です。

というのも、歯科医に限らずですが、開業のタイミングは物件次第のところが大きく、良い物件がが出てきた時点で急に進んでいくのが普通だからです。

物件をずっと押さえておくことはできません。

不動産業者としてはできるだけ早く契約を済ませたいですから、せいぜい1か月程度しか待ってもらえないと思います。最大限に伸ばせたとしても3か月でしょう。

なので、あらかじめ計画を立てたうえで金融機関に相談し、融資の感触をつかみつつ、物件を探すことになると思います。

良い物件が見つかったら、すぐに物件の申し込みができるように融資の準備をしておきましょう。

歯科医院の開業資金を融資した事例紹介

2つのケースを事例として紹介します。

建物の建築を含めたAさんへの約1億4500万円の融資のケースと、テナントに入る形での歯科医院開業で約8,000万円の融資のケースです。

歯科医院開業で1億4,500万円の融資事例(自社物件として新築で開業)

近隣歯科医院の閉院をきっかけに新たに開業されたケースをご紹介します。

資金調達から事業計画の立案まで、地域金融機関との連携によってスムーズに開業へと至った一例です。

融資スキームと所有形態

このケースでは建物の所有と、医院の運営を個人と医療法人に分ける形で設計されています。

●建物建設資金(個人)
Aさん個人が建物の建設資金として、総額1億1,650万円を調達。
建物はAさん個人の所有とし、開業後は医療法人社団B歯科へ月額20万円で賃貸。

融資条件は、金利1.00%で返済期間35年、毎月返済額:33万円。プロパー融資※。
工事の進捗にあわせて、つなぎ融資(着工金・中間金)も段階的に実行。

●運営・設備資金(法人)
建物完成後、医療法人のa歯科に対し、設備費・運転資金含めて2,900万円を融資。
融資条件は、金利1.15%でプロパー融資。

※プロパー融資
開業資金などを信金や銀行から借りる場合、「プロパー融資」と「信用保証付き融資(保証協会付き融資)」の2種類があります。

プロパー融資とは、金融機関が自らの判断と責任だけで実行する融資のことを指します。つまり、公的な保証機関(信用保証協会)による保証が付いていない融資です。

一方の「信用保証付き融資」は万が一返済ができなくなった場合、金融機関が損失を被らないよう、信用保証協会が保証人のような役割を担う仕組みです。

信用保証協会の保証を受けるには、借り手は保証料を支払うことになりますので、借り手側からするとプロパー融資のほうが有利です。

ただ、金融機関側としてはリスクを抑えたいですから、特に新規の融資であれば、たいてい信用保証協会の保証を求められます。

融資実行の背景

Aさんの父親が現役の開業医であり、個人保証人として加わったことで、金融機関側の与信判断において大きなプラス材料となりました。

また、閉院となる歯科医院の患者を引き継ぐ形になっていることもポイントです。新規開業からいきなり固定の患者がつくことになるため、収益面でかなり有利です。

融資対象費用の内訳

●Aさん個人の融資(合計 約1億2,000万円)
建築費:1億1000万円
登記・諸経費:100万円
火災保険:130万円
内覧会費用:120万円
告知広告費:30万円
ホームページ制作:100万円
口腔外バキューム導入:400万円
諸経費(予備費等):100万円

●法人融資(設備資金および運転資金で2,900万円)
カメラネットワーク:200万円
X線機器:800万円
診療用チェア:600万円
機械室機械一式:350万円
歯科用吸引装置:350万円
その他、フリーアームなど。

収益計画と返済見込み

この事業では、近隣医院の閉院による患者流入を前提に収益計画が組まれました。

本計画では以下の前提で収入計画が組まれています。

  • 想定営業日数:月21日(年252日)
  • 患者数:1日55人想定
  • 診療単価:6,490円
  • 歯科医師:2名
  • 歯科衛生士:8名
  • 歯科技工士:1名
  • 歯科助手:3名

財務見通しとキャッシュフロー(20年計画より)

初年度と2年目は営業利益は赤字、3年目で黒字になり、4年目以降は同じ売上と仮定しています。

●初年度
売上:1億1,700万円
営業利益:▲670万円

●5年目
売上:1億3,600万円
営業利益:500万円

●10年目
売上:1億3,600万円
営業利益:800万円

●15年目
売上:1億3,600万円
営業利益:570万円

●20年目
売上:1億3,600万円
営業利益:330万円

歯科医院開業で7,900万円の融資事例(テナント)

テナント物件を活用しながら設備投資やIT機器などに十分な初期投資を行った開業事例です。

堅実な計画立案と事業収支の裏付けにより、複数の融資を適切に組み合わせて開業を実現したケースです。

融資スキーム

この資金は以下の3本立てで調達されました。

融資種別 借入金額 返済期間 据置期間
設備資金(プロパー) 2,400万円 15年 12か月
運転資金(プロパー) 4,500万円 15年 12か月
設備資金(信用保証協会付き) 1,000万円 10年 0か月

これらは医療設備・IT投資・初期運転資金のバランスを見て適切に配分され、返済計画も月々のキャッシュフローに十分耐えうる設計となっています。

融資対象費用の内訳

この案件では、テナント入居型として物件を賃借しつつ、診療機器やネットワーク設備を中心とした投資を行っています。

テナント契約:100万円
改装工事費:2,200万円
インプラント関連設備ん200万円
医療機器(その他):4,000万円
医療機器(外科器具類):100万円
ホームページ作成費:210万円
広告宣伝費:60万円
運転資金(初期):1,000万円
合計:7,870万円

収益計画と返済見込み

本計画では以下の前提で収入計画が組まれています。

  • 想定営業日数:月22日(年264日)
  • 患者数:1日14人想定(1年目は8人、2年目は10人、3年目は12人)
  • 診療単価:6,490円
  • 歯科医師人数:1名
  • スタッフ体制:受付事務1名

この体制により、年間診療売上は初年度に1,700万円、2年目で2,100万円、3年目で2,600万円、4年目以降は3,000万円を見込み、固定費を除いた営業利益率(MMPG営業利益率)は15.9%を想定しています。

財務見通しとキャッシュフロー(20年計画より)

20年分の事業収支計画書から、以下のような財務見通しとなっています。

●初年度
売上:1,700万円
営業利益:▲500万円

●5年目
売上:3,000万円
営業利益:650万円

●10年目
売上:3,000万円
営業利益:1,350万円

●15年目
売上:3,000万円
営業利益:1,350万円

●20年目
売上:3,000万円
営業利益:1,500万円

初年度は広告・設備などの先行投資が重なり赤字スタートではありますが、3年目以降は黒字化を果たし、10年以内に初期投資を大きく上回る利益とキャッシュフローを見込んでいます。

このように、テナント開業であっても設備投資をしっかり行い、明確な患者数想定と利益率の裏付けを持って計画を立てることで、金融機関からの信用を得てスムーズな資金調達が可能になります。

まとめ

歯科医院の開業に限らずではありますが、融資においては開業形態に応じた柔軟な資金調達と事業設計が求められます。

本記事で紹介した2つの事例では、新築開業、テナント開業のいずれにおいても、

必要な初期投資額を把握し、

無理のない返済計画を立て、

金融機関からの信頼を得るための事業収支シミュレーションを作成する、

という基本が共通して押さえられていました。

テナント型は比較的初期費用が抑えられる一方で、新築型では土地・建物にかかる費用が大きくなるため、より綿密な計画が求められます。

どちらの形であっても、資金調達の成否は「構想の明確さ」「数字の説得力」にかかっているといえるでしょう。

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