立志財団会員ロング・インタビューでは、会員のみなさまの志やビジネスのサクセスストーリーをご紹介していきます。
今回は社会保険労務士法人ネクステップの菊池 麻由子(きくち まゆこ)さんです。
制度作りだけに留まらないコンサルティングで企業や社員の働き方をサポートし、女性のキャリア支援を実現する志を語っていただきました。
人間関係に根ざした社会労務士
——本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介と今されているビジネスについて教えて下さい。
菊池麻由子と申します。社会保険労務士としてこの4月に社会保険労務士法人ネクステップという法人を立ち上げました。社会保険労務士としては11年前に資格を取り、そこから10年一つの事務所で働いて去年の8月に退職して9月に独立をしたところです。社労士としてその10年間で300社以上のクライアントさん、1人のところから500人規模の会社さんまで、労務全体の領域で携わらせていただきました。
社労士の仕事ってイメージのわかない方も多いと思うのですが、幅が広い仕事でBtoBでもBtoCで関わることもあるんですが、私はどちらかというとBtoBで企業様向けにコンサルを提供しています。役割としては、大きく分けると、一つは役所に出す手続き業務です。これは独占業務なので他の士業さんではできないところです。
例えばどこかの事務所で勤務する際に社会保険に入って保健所を出して欲しいみたいな場合だったり、失業してしまった時の雇用保険だったり。そういう手続きの代行は社会保険労務士の国家資格が必要です。もう一つは相談業務、コンサルティングですね。就業規則や評価賃金制度を作ることといった企業さんへの労務相談です。こちらは資格を持っていなくてもできる業務になるんですけど、そういう保険周りの労務相談に特化しています。
私は今まで手続きや制度設計をやってきたんですけど、何か制度を作ったからといって急に会社が良くなることはまずないんです。あと法律だけで解決できることもまずありません。コミュニケーションや組織風土だったり、ちょっとした声かけだったりとか、人間関係が組織の発展に重要だなというのを感じてきました。
つまりソフトとハードの両方を伴わないと組織って良くならないということを思い、キャリアコンサルタントの資格を取得しました。社員さんのキャリア、何のために働くのか、ご自身がどうやって成長していくのかと、会社の成長を両方サポートすることが実際すごく重要だと思い、そこを両方やるために独立したんです。
婦人雑貨のマネジメントから学んだ組織運営
そう思った原体験に遡ると、私は大学を卒業してからずっと百貨店に17年勤めていました。婦人雑貨と呼ばれるところで販売や広報、仕入れだとか、大企業だったので幅広い仕事を任せてもらいました。その中で一つの帽子の売り場を任されたときです。
百貨店っていろんな取引先さんの販売員さんがいらっしゃるんです。社員さんだけでなくいろんな働き方をしている人が集まっているので、いつもいざこざや争い事が起きていて売り上げがあまり伸びなかったんですね。それで一人一人と話したり、チームミーティングをしたりしていくうちに、2年くらいはかかったんですけど凄くチーム力がついてきました。みんなんで協力してみんなで売り上げを作ろうっていうチームになれて、業界では日本一と言われるくらいには職場を成功させることができたんです。
なので私は、そういうチームを作る仕事が向いてるんだと自分で思い、その百貨店を辞めるときに次は何やろうか考えたときに人や組織に関われるような、自分が一生できる仕事ってないかなって探したとき、社会保険労務士っていう資格を見つけて取得したんです。
キャリアコンサルタントの資格を取ったのは5年前、社労士の資格を一通り覚え始めた頃ですかね。その当時20名くらいの組織だったんですけど、そこの狭い世界だけでなく外の世界も見てみたいと思い勉強会にもよく行くようになって、そこから色々と知識やつながりが広がっていきました。もちろん資格を取ることが目的ではなくて、自分から情報を集めて実際にお客様に関わっていく中で自身も成長していかないといけないし、その資格は一つの手段であって本当にクライアントさんに最善の提案ができるようにと思ってやっています。
社会人になってから人間関係の争いとか、ちょっとしたボタンの掛け違いとかでトラブルになることを目の当たりにしてきて、私は元々そういう争い事が嫌いなので純粋に仕事を楽しめる環境を作りたい、活き活き働ける環境を整えたいというの根底にあるんですよね。1日8時間とか働いている時間が苦しくて自分らしくいられなかったり、不健康だったりというのは、一人一人の人生にとってすごくもったいないことだと思います。せっかく同じ働く8時間であれば成長ややりがいにつながって未来に向かうような時間になる支援をしたいなと思っています。
社労士になってからもクライアントさんと関わっている中で本当にちょっとしたすれ違いが多いと感じています。会社に入ってはみたけども思っていたのと違ったとか、説明不足やお互いの確認が足りなかったために入ってからトラブルになってしまうことです。最初にうちに会社のルールってこうなんですよというのをきちんと説明した上で、お互いが納得して働けるのが一番いいですよね。
入ってからも自分の今の状況をきちんと伝えられる安心な場があれば離職も減って企業さんにとっても採用にかけるコストも減ります。せっかく仕事を覚えてもらったのに辞めてしまうこともたくさんあって、成長を減速させてしまっているので、そういうところが解消できれば会社にとっても日本のためにも貢献できるのかなと思ったんです。
会社にとっても労働者さんにとってもまた探さなきゃいけないストレスがかかってしまっていてはもったいないなと思うので、そのマッチング、会社側もどういう会社かきちんと伝えられるというのが人が集まる会社にするためにはすごく大事だと思います。
法律・制度から一歩踏み込んだコンサルティングを
——独立に至った経緯について教えてください
前に勤めていた事務所が30人規模くらいまで大きくなり、自分がやりたいコンサルティングができなくなってきたのが大きいですね。管理職になりマネジメント業務が増えてきて、それも嫌いではない一方で、今後の自分の人生どうしたらいいんだろうって考えたときに、社労士としての仕事の中でやりたいことを実現したいと思いました。喧嘩をしたわけでなく円満に退職できました。後はやっぱり自分の力を外で試してみたいと言うのもあったかもしれませんね。
通算して25年くらい従業員の立ち位置で過ごしてきて、社労士になってからは経営者の方のご相談にも乗って経営者の気持ちも少しわかるようになったんですけど、独立した一つの理由は経営者にならないと経営者の気持ちってわからないと思ったこともあります。
——ご自身の社労士としての強みはどのようなところにあると思いますか?
よくクライアント様からは相談しやすいとか、一緒になって考えてくれるとおっしゃっていただいています。例えば嬉しかった話で言うと、IT企業のクライアントさんで入って1年経たない若手の社員さんが転職を考えていると経営者の方に相談したと連絡が入ったんです。じゃあ一緒に話聞いてみましょうと面談をしたんですね。
その理由というのがびっくりしたんですが、自分が手持ち無沙汰で仕事が空いてしまう時間が多かったので自分の実力不足で必要とされてないんじゃないかというのを誰も言ってないんですけど思ったらしいのです。それで、実力をつけるために転職サイトに登録してみたら面談まで進んで内定まで行きそうなので辞めようと思いましたとおっしゃったんですね。そのお話を聞いて経営者さんもびっくりしていました。経営者さんの印象としては黙々としっかりしてくれてるし、これから成長できるのかなと期待もしていて仕事もあまり負荷をかけてはいけないと思ってたくさん渡していなかったんです。それを信頼されてないんじゃないかとすれ違いが起きてしまっていたんですね。
であれば、お互いがもうちょっと進捗確認をした方がいいよねとか、もっと学びが深まるよう社内に教育ツールを導入してみるとか経営者さんも考えて色々話したら、結果的には内定を断ってもう少し頑張りますと言ってくれて退職は防げたんです。
中小企業さんってそういうちょっとしたすれ違いがまだまだたくさんあって、多分そこでお互いがきちんと腹を割って話をしなかったら辞めていたと思うんです。経営者さんも若手が辞めてしまうのはショックなので今では定期的にチームミーティングをするようになって、チームリーダーを置いて若手のフォローを考えてくれています。少しずつですけど改善して風土を変えようと取り組んでいるところなんですけど、そういう法律とは違う形で解決することが多いんです。
法律だと14日前に言えば退職できるとか、就業規則だといついつまでに退職届出してね、で終わってしまうところなんですけど、一歩踏み込んで、どういう背景でそうなったのかがすごく大事なんです。そうすると次の手が考えられますからね。教育の場が必要だったのか、フォローできる先輩が必要だったのかと色々考えられるので、辞めるにしても辞めないにしてもきちんと話を聞くのが大事だなと思って、そんなコンサルティングをしています。
得意分野の違いを活かしてチームを伸ばす
——社労士になられてからの苦労はありましたか?
それまでは人事の経験が全くなかったので、手続きとか給与計算ってどっちかというと苦手な仕事で、覚えないといけないことがたくさんあって最初の3年間はすごい苦しかったですね。ずっと一日中机に向かって事務作業をすることも今までなかったので…。でも3年間みっちりやったことで基礎的なことは学べたので今となってはすごい良かったと思います。4年目からクライアントさんのところに訪問してお悩みを聞いて提案するようになり、そこで本格的に社労士の仕事って楽しいなって思えるようになりました。
ずっと机に向かって事務をやっているっていうのが苦しかったとき、一緒のチームの女性に、ランチでその話をしたんですよ。そしたら「え、私そっちが好きなんです」「外出しないで一日事務をしているのがすっごい好きなんです」って言われたんです。そういう人がいるんだと驚いたのと同時に、これは得意なことをお互いやった方がいいと思いました。
それで私が苦手なところを彼女に任せるようになったら彼女も喜んで協力してくました。「私がやるのでどんどん仕事振ってください」って。そこからチームも凄く成長したんですよね。やっぱりそういうのも含めて、ちゃんと話した方が良い関係で仕事を進められますね。最初はこんなに仕事を任せたら迷惑かなって遠慮していたんですけど、話してみたらどんどん持ってきてくださいと言ってくれて凄くいい関係で働けました。誰とチームになるか、この人をどうやって活かすかってすごく大事だなと思いましたね。彼女も信頼されている感覚で活き活きと責任を持って仕事してくれるようになったんです。
あと独立してから大変だったのが、どうやって自分のビジネスを人に伝えるかですね。社会保険労務士ですと言っても中々それだけで伝わる仕事ではなくて、立志塾でブレない軸をしっかり作ろうって思って参加したんです。それが独立の2ヶ月前です。コアコンセプトや事業計画を作るのも初めてだったし、何をやるのか、何故やるのか、そういうところを立志塾の8ヶ月じっくり見つめられる時間だったので、独立してからはそれがあってよかったなって思います。もちろんそれで終わるわけでなくて、卒業してからがスタートなので今もずっと考えながら動いています。時代もすごいスピードで変わっていくので、いろんなことに柔軟に取り組んでいきたいですね。
豊かな人生に向けて次の一歩をともに作る
——最後に今後の展望を教えてください
力を入れていきたいのは女性の活躍推進です。私も女性としていろんな女性の方のお話を聞いていると自分ではコントロールできない体の悩み、出産や女性特有の病気であったり、自分が働きたくても家族の介護であったり、いろんな要因で思うように働けないことがあります。そういう時にもっと柔軟な会社の制度があればキャリアを諦めずに働き続けられる選択肢もできると思うんです。
また、男性の社員さんもそこに触れづらくて聞けなかったりとか、認識のズレがあったりします。女性はもっと話を聞いて欲しい、サポートして欲しいっていう気持ちがあっても男性側は制度は作るけどどうやってサポートしたら良いかわからない、聞きづらいというのがあって、その橋渡しとして男性にも知ってもらって、女性が有利になるようにしたいわけではなくてお互いにわかり合いながら働ける環境を目指して取り組んでいきたいですね。
私自身、個人事業主として独立もしたし、今は法人の経営者でもあって、女性としてもいろんなことを経験してきました。なのでこれから起業を考えていたり、自分のキャリアをどうしたいか考えている女性のサポートをしたいなと思っています。いろんな女性がいると思うんですけど、多くの選択肢を持っていた方が豊かに生きられるかなと思っています。
例えば、一時的に会社を辞めて子育てに専念されている方もいらっしゃると思いますが、長い人生を考えた時にご主人の収入だけに頼っているというのは、もしご主人に何かあったときに選択肢が狭くなってしまいます。他にも、管理職になりたくない、体調が悪くてどうしても働けないとなると、自分のキャリアを諦めてしまう気持ちになるかもしれません。
でも私は自分の経験から、いつでも何歳になってもキャリアは切り開いていけると思っているんです。何も準備ができていないまま苦しくなった時のことを考えると、すぐに起業でなくても何か自分の好きなことや得意なこと、そんなちょっとしたことで自分の未来を考えるというのも早いうちからしておくと豊かな人生になれると思います。そういう支援を考えていきたいですね。総合的な研修というよりは、個人で生活も人生観も違うので一人一人の対応がこれからは必要だと思っています。
私の真志命は「未来につながる次の一歩をともに作る」ということです。私が関わることで何か次の一歩を踏み出してみようかなとか、小さいことでもいいから進んでいこうと思える関係を作ってくのを志にしているので、それを実現していきたいです。女性とは言っていますが男性も同じだと思います。これからもっと大変な時代になっていく中で、女性も男性も自立できるとお互いに助け合うこともできるはずです。
社会労務士法人ネクステップ https://work.sr-nextep.com
事業継承LABOインタビュー https://is.gd/q0qEP0